女の子は、腹ばいになった男を不審がる様子も見せず、柔らかく微笑んで「こんばんは」と、鈴の音のような可愛らしい声で答えた。女の子そのもの、というよりは、教会で歌うメゾソプラノの男の子の、美しい声色をセイジに思い起こさせた。

 恐らく、声色が中性的なのだろう。

 セイジは、女の子を見て、八、九歳ぐらいだろうかと推測した。

 それにしても、すっかり女の子らしい仕草が似合う子だと、セイジは少しばかり驚いてしまった。癖のない真っ直ぐ腰まで伸びた漆黒の髪や、どこか色香も思わせる白い肌。薄く桃色づく頬と、血色の良い蕾のような小さな唇。華奢な顔は、小奇麗な日本人形にも似ている。

「あの、君はこんなところで何を――」
「申し訳ないのだけれど、こちらへ、いらしていただけるかしら。わたしは、あまり動けないものだから」

 女の子は、スカートの裾から覗く自身の白く細い足を撫でた。

 足が不自由なのだろうか。ほとんど筋力がない小さな足は、力なく横たわっていて、セイジは、どうにか小さな扉をくぐり抜けると、女の子の向かいに腰を落ち着けた。