ゲームは既に始まっているはずだが、静かで何もない空間には、どうやら敵すらいないようだった。神経を研ぎ澄ませてみても、彼の五感に障る敵意や気配は、どこにもない。

 風変わりな環境に対して、順応が早いのもセイジの良い所だった。彼は、緊張疲れとはほど遠い心持ちで、己のリズムのまま闇の中を歩き続けていた。危機感は全く覚えておらず、冷静である。

 歩きながら、セイジは、もう一度「おおい」と声を上げてみた。

 自分なりに張り上げた声は、反響もせずに遠く向こうまで吸い込まれていった。かなり広い空間に自分は立たされているらしいと、セイジは改めて実感し「ふむ」と肯いた。

 どこが出口で、どこが入り口なのだろう。

 もしかしたら自分は、ゲームの会場にすら辿り着けていないのだろうか?

 セイジは、ようやくそこで一つの不安を覚えた。危機感とは全く別件の、ある焦燥感が小さな胸騒ぎとなって、彼を申し訳ない気分にさせた。

「……出番が遅れたら、またログに怒られるなぁ」

 いつもそうなのだ。なぜか自分が辿り着く頃には、事が山場を終えていることが多い。スウェンとログの危惧が、空周りする事が不思議とある――らしいと、セイジは仲間内からよく聞かされていた。