正直なところ、少しでもいいから息を整える時間は欲しいかった。例えば、ゆっくり腰を落ちつけられるソファや、しばらくは一切の敵も来ないという状況が好ましい。

 欲を言えば、酒か煙草があれば尚良いだろう。二人の男は、現実世界が少しだけ恋しくなった。

「やれやれ。歳は取るもんじゃないねぇ」
「お互い様だろ」
「まぁね」

 スウェンは疲労顔で苦笑した。彼は「よいしょ」と、背中に担いでいたバズーカ砲を構えた。

 巨大な化け物の赤い眼光が、薄ら暗い頭上から二人を見降ろした。

            ※※※

 大きな破壊音が足元に響いたような気がして、セイジは顔を上げた。

 改めて耳を済ましてみたが、物音は一つも聞こえて来なかった。どうやら、自分の気のせいだったようだと知り、セイジは止まった足を再び前へと進めた。

 離れ離れになってしまったスウェンとログ、エルの事が気がかりだったが、ここでは何も知りようがなかった。

 先程、審査の回廊から落とされてしまったセイジは、しばらくもしないうちに柔らかいクッションの上に着地していた。白とも、明るい灰色とも取れない地面はあるのだが、足音は響かず、触れてみても温度がなく素材も分からないでいる。

 ピンクのレースがついた、巨大なクッションが所々に打ち捨てられている以外、何も無い場所だった。

 セイジは、まず、誰もおらず何もないこの状況を見てとると、とにかく歩くかと考え、歩きながら二、三度、仲間の名前を呼んでみた。効果はまるでなかったが、完全に皆と切り離されてしまったという事だけは実感出来た。

 巨大な空間は広がっているが、天井は果てが見えず四方全てが闇に包まれていた。

 不思議な事に、己が進む先だけが、やけにハッキリと視界には映り込んでいた。セイジはずっと、地面を持った闇の中を、背中を丸めて歩き続けている。