化け物は巨体ながら、破壊力もスピードもあり、一体倒すだけでもかなり骨が折れた。銃弾よりも飛びナイフで心臓を狙い打つ方が効率も良かったが、間合いに入り込まれるたびに接近戦となり、体力ばかりが奪われた。

 化け物には首がなく、強靭な筋肉に覆われた身体をしているのが厄介だった。

 一番手っ取り早い急所は首ではあるが、怪物には折るべき首がないので、倒れ込んだところでナイフを使って急所を刺すしか方法はない。肉弾戦で、化け物の肋骨を砕いて肺と心臓を潰すにも、必要以上に力が要る。

 敵の数は無数であるため、長期戦には圧倒的に不利な状況だった。

「くそッ、出口はまだかよ!」

 吊るされた豚の死体の血のせいで、足元が滑りやすい事に舌打ちし、ログが素早くナイフを放った。狙いが反れたナイフの先は、化け物の腹部に深く突き刺さったが、凶器が振られるのを阻止するまでには至らなかった。

 薄暗がりから発せられた銃弾が、化け物から振り降ろされる長い肉切り包丁の刃に当たり、動きを僅かに鈍らせた。

 ログは、足元に転がっていた怪物の肉切り包丁を掴み上げた。それで化け物の両足を切断すると、敵が崩れ落ちる瞬間に上から真っ二つに切り裂いた。

 何度見ても、化け物が持っている肉切り包丁の切れ味にはゾッとするものがあった。抵抗もなく、吊り下げられた豚の死体も完全に切断してしまえる代物だ。ログは、「やれやれ」とそれを肩に担いだ。