肩から力は抜けたものの、嫌な心音の震えは、すぐには身体の中から消えてくれない。エルは、ホテルマンに気付かれないうちに心を落ち着ける努力した。

 闘う為の術を、身体はよく覚えているものだ。あのホテルでの一件以来、急速に手に馴染み出している銃の感覚が、エルには恐ろしくもあった。

「小さなお客様は、何か訓練をされていた経験がおありで?」

 ふと、嘘つきの笑顔がエルに向けられた。笑っていない目は、エルの心身に教え込まれた技が護身術ではない事に気付いているのか、何も感じていないのか、まるで読めなかった。

 エルは呼吸を整えながら、返答に窮した。

 ずっと話す事のなかった言葉や思いが、鈍りのよう身体に重くこびりついている事に気付いた。嘘を吐く事も、取り繕う事も、打ち明ける事も、他人と関わらなければ、手に入れられないものだ。

 暫く悩んだが、エルは、言うべき言葉がとうとう見つからなかった。迷いと葛藤が心を締めつけて、結局は、何度も深呼吸を繰り返したすえに、エルはか細い声で、こう答えるに留めた。