「お知り合いですか?」

 ホテルマンが、気付いたようにそちらへと目を止めて、振り返りつつエルに問いかけた。

「知らない」

 大柄で屈強な方の男と再び視線を交わしてしまい、エルは苛立って、そう言い捨てて立ち上がった。

 しかし、立ち上がったところで、視線を下げたエルの眉間から皺が消えた。クロエの眼差しを受け止めて、自分で歩きたいのだと察して、その体調の良さに安堵の笑みを浮かべる。

「おいで、クロエ」

 声をかけられたクロエが、「ニャン」と答えて、老体とは思えないしなやかな動きで絨毯の上に降り立った。

 擦れ違い様、ホテルマンが「そうでしょうねぇ」と呟いた。

 エルは、思わず足を止めて彼を振り返った。ホテルマンは、相変わらず張り付いた笑顔で男達の方を見ていた。彼らの方は既に視線を戻しており、金髪碧眼の男が笑顔で何事か話し聞かせているようだった。

 エルは怪訝に思って「何か言った?」と声を掛けるたが、ホテルマンは、嘘臭い笑顔をぐるりと向けて「いいえ、何も」と答えた。