ホテルマンが不意に、表情一つ変えず、化け物の中心に反対側の足も叩き込んだ。

 一際大きな鈍い音が上がり、化け物の身体から急速に抵抗力が失われていった。背骨と、身体の臓器がようやく潰れてくれたようだ。エルは銃のロックを戻しながら、崩れ落ちる怪物の巨体から飛び退いた。

 リノリウムの床が、化け物の転倒の衝撃で鈍く震えた。巨大な鋭利包丁の先が、稼働するベルトコンベアーに触れて弾かれて、近くの作業台にまとめられていた小型包丁や手袋にあたって散乱した。

 化け物は数十秒ほど痙攣を繰り返した後、動かなくなった。

 エルは、呼吸を整えつつ銃を元の位置にしまった。ホテルマンが、乱れた手元のシャツの袖口と襟元を整え直した。

「それにしても、びっくりした。あなた、結構強いんだね」
「いえいえ、あなた様も素晴らしい動きでしたよ」

 ホテルマンが、大袈裟に眉を上げて褒めた。

「私はアレですよ。ホテルマンというもの、ホテルとお客様を守る為には、強くあらねばなりませんからね。護身術、格闘技等、あせゆる戦闘技術を体得しておりまして」
「……あのさ、それってホテルの従業員に必要なものなの?」

 今更ながらに、ホテルマンというキャラクター設定に疑問を覚えたが、おかげで身体の緊張は解れていた。