夢の中に登場するエキストラという存在には、リアルな恐怖は通用しないのかもしれない。確かに、やって見なければ何も始まらないし、先へは進めないだろう。二人で挑めば、恐さは半減するような気もする。

「――わかった。あいつは目が見えていないみたいだし、出来るだけ応戦は控える感じで、ここから脱出しよう。必要があれば叩き潰せばいい」

　エルが告げると、ホテルマンはニッコリと、心底わざとらしい笑みを浮かべて
「かしこまりました」と答えた。

　その時、化け物が不意に、その巨体をこちらに向けた。

　俊敏な足裁きを見せた化け物が、次の瞬間には二人の眼前に迫っていた。ホテルマンの肩越しにそれを見たエルが警告を発する間もなく、化け物の身体が、ホテルマンの後方に回り込む。

　瞬きも許さない速さだった。化け物の持つ巨大な凶器が、風を切り裂く音よりも早く振り下ろされ、反射する電光と風圧が、二人の五感を打った。

　巨大なに区切り包丁の鋭利な刃が、一瞬にして空気を切り裂いた。

　エルは、反射的に背を反らせて首を引っ込めた。ホテルマンが「うひゃあッ」と悲鳴を上げて身を屈め、鋭利な刃による切断を免れる。