どれぐらい暇な時間を過ごしただろうか。不意に、足元に光りが見え始めた。

 ようやく、どこかの階へ到着するらしいと、エルは頭の後ろに組んだ手を解いた。

「このまま衝突してしまうと、痛いでしょうねぇ」

 ホテルマンが、面倒そうに呟いた。

「怪我したくなかったら、受け身を取るしかないよ」

 エルは、そう答えて衝撃に備えた。徐々に迫って来る切り取られた景色に目を凝らすが、一体どんな空間が広がっているのか見当がつかなかった。切り取られた風景は単色で、そこにある部屋の様子が掴めない。

 疑問を覚えた時、二人の身体は開けた空間に突入していた。

 衝突するという先入観に短い悲鳴を上げかけたが、飛び込んだ景色の中で、二人の身体は一瞬、空中で止まった。

 ほんの数秒間、二人の身体は宙を浮いていた。その刹那に辺りの様子を確認し、エルは驚いた。落ちると思っていた足元に広がっていたのは、網目状の線が入った白い天井だったのだ。

 急速に重力が反転し、二人は受け身も忘れて床に不時着した。