スウェンはそこで、同じように咄嗟に駆け寄ろうとした行動に出たログへ、ちらりと視線を投げて寄越した。

「ログ、君が誰かを想うなんて珍しいじゃないか」
「お前だって、顔面蒼白だったぜ」
「予想外だったんだよ」

 スウェンは、若干苛立ったように前髪をかき上げた。

「セイジの指からは、結婚指輪が消えていたんだ。他に、誰がエル君の事を考えるんだ? それは僕じゃない。君だろう?」

 静かな憤りを口にしたスウェンは、気付いたように自身の口に手をあてると、数秒ほど沈黙した。

「……すまない。僕の方も少し冷静さを欠いてしまったみたいだね。巻き込まれた民間人への感情移入なんて、僕らしくもなしい……」

 スウェンは呟くと、自分を落ち着けるように、もう一度前髪をかき上げた。

「あの子は、とても聞き分けがよくて利口だと思うよ。きちんと理解したうえで、僕等とも距離を置こうとしてくれているのも分かってる」
「ガキの癖に、勘は良いらしいからな」

 ログがそう言って踵を返した。彼は動揺の見られない確かな足取りで、先へと進み出す。