「ゲームの景品は『形ある物』らしいけれど、この会場は恐らく、僕らの為に用意されているようなものだし、ゴールにあるのは支柱しかないからね。出来ればアリスに繋がるようなヒントでも得られればいいんだけど、手掛かりを明確な物に例えないと、難しいだろうなぁ……」
「アリス自身を、呼び寄せる事は出来ないのだろうか」

 スウェンの背中に、セイジが遠慮がちに声を掛けた。

「存在している物が対象なのだろう?」
「アリスは『エリス・プログラム』の直轄内の『仮想空間エリス』にいるだろうから、エリア違いであるこの場所に呼びよせる事は不可能だろうね。――問題は、隠されてしまう物の対象だよねぇ」

 スウェンはそこで一度言葉を切り、ゆっくりと長い息を吐いた。

「ログ、どこまで思考が読まれてしまうと思う?」
「全部を把握される事はないだろうが、常識そっちのけで、単純に思考が読まれる可能性はあるな。でたらめな世界設定って事は、何でもありなんだろ?」
「読まれるタイミングによっては、不利になってしまうかもしれないなぁ……」

 その時、来た道から「おぉ~ぃ」と声が聞こえて来た。

 聞き覚えのある声に、四人は反射的に、ほぼ当時に振り返った。こちらに向かって駆けてくる人物に目を凝らすと、既に扉も見えなくなった廊下の薄暗がりの向こうから、例の蝶ネクタイをつけた胡散臭い男が、こちらに向かって大きく手を振っていた。