「……あの人は、人のいる世界が好きだった。僕は、とうとう言葉を交わす事も出来なかったけれど、こんな作り物の世界ではなく、あの人を還るべき場所へ連れ出してあげたいのです」

 少年は、闇の中で、その望みを口にした。

 主人が死んだ時の事は、よく覚えている。突然別の夢世界へと連れ去られ、死んで戻って来た。空っぽの魂だけが、先に彼岸へと向かってしまった。

 主人の肉体と『心』と『夢の核』だけが、この世界に捕らわれて、外へ出る事も叶わないままだった。心のない魂は、彼岸を超える事も出来ずに、自分が人間だった頃の姿を保ったまま境界線上で漂い待つばかりだ。

 死した身体は、この世界が解放されれば現実世界へと帰れるだろう。

 少年は彼の『夢守』として、彼の『心』を彼岸へと送り届け、次に相応しい『宿主』の為に『夢の核』を連れて帰らなければならなかった。

 結局のところ、少年は彼の記憶や心にすら、留まる事も出来ないのだ。