「……僕を『喰らう』のですか?」
「ふふふ、『理』の許可もなく喰らいはしませんよ。この世界での、君の役割を頂くだけです。君には暫く退場して頂きますが、後で定められた通り『宿主』の『心』は回収しておいて下さい。恐らく、君が気付く頃には全て終わっているでしょうから」
「『彼』は、どうなるのですか」
「大丈夫、君の望みは叶えてあげますよ。さぁ、望みを口にしてご覧なさい。ここはもはや、『彼』の夢に縛られた空間ではなく、もう、私の腹の中です」

 悪夢が耳元で囁いた。視界の全てが、暗黒に呑まれてゆくのを感じた。

 少年は、人の手によって芽を摘まれてしまった、自分の哀れな主人を思い起こした。


 少年の『宿主』となった主人は、現実世界で繰り返される毎日の仕事を嫌っていた。機械的に仕事を行う従業員同士の、時々交わされる数少ないコミュニケーションだけを好いていたようだった。

 感情がない、愛着もない、言葉もないと思っていた顔無し達から、たまに感じる人間らしい一面を気に入っていたらしい。