「なるほど。外部からの強制命令が届く前に『核』を奪還し、ここへ隠れたという訳ですか。そうすれば、貴方の『案内役』としての権限だけは守れる」

 途端に、少年は男から距離を取って身構えた。

「――お前は、何だ?」

 問いかけると、ふざけた顔を持った男が「ほほほほほ」と妙な笑い声を上げ、皮肉な顔で少年を見降ろした。

「君は完成されている『夢守』であったのに、勿体無い事ですねぇ。あの人間は、孵化する前に『宿主』から芽を引きずり出してしまった。この世界は既に、君の存在すら維持出来ないほど崩れ始めている」
「『理』を知っているということは――貴方も『夢人』なんですね?」

 少年は、ようやく合点がいったという顔で、男を睨み付けた。

「貴方も、僕と同じように誰かの『夢守』であれば、少しは分かるでしょう。死した『宿主』の夢が崩壊してゆく様を最後まで見届け、決して戻っては来られない境界線上の向こうまで、彼の心を送り届けなければならない、僕の気持ちが」
「『気持ち』ですって……?」

 男は両肩を震わせたかと思うと、途端に、堪え切れないといわんばかりに腹を折り「うふふふふ」と気味の悪い声で嗤い始めた。唐突に、大きな口を開いたかと思うと、空気が割れるような声で狂ったように笑った。

 少年は、強烈な違和感に言葉を失った。男の存在も、彼から吐き出される笑い声も、大きく歪んでいるような気がする。自分が何かを、大きく履き間違えているような悪寒を覚え、一歩後退した。

「おっと、これは失礼――それが『君達』の存在意義でしたねぇ。私には、どうにも分かりかねますが」

 すると、少年のそんな様子を見て取った男が、ピタリと笑いを途切れさせた。