畜生、と男は内心頭を抱えた。

 この子は素直で可愛いのだが、頑固なところもある。一度決めたら曲げないところは、将来訪れるであろう運命の日を考えれば有利とはいえ、やはり複雑な心境を覚えた。まるで現実的な話ではないが、しかし、信じない訳にもいかないだろう。

 まさか、自分が離れた後の米軍で、とある研究が未知の領域に踏み込んでしまったなどと、本当であれば信じたくはない話だったが、世間に後悔されていない戦いを見て来たからこそ、多分有り得る話なんだろうな、とも納得してしまうのだ。

 すると、鏡越しに目が合った拍子に、その子の大きな瞳が不思議そうに瞬いた。

「青い目」
「そうだな。俺の目は青い、お前は茶色だ」
「髪も髭も白い」
「そりゃあ歳だからさ。前にもこのやりとりしたよな?」
「そうだっけ」

 古い平屋の石垣作りの畳み部屋で、男は、聞き慣れた音が空を走るのを聞いて顔を向けた。

 沖縄の空は青い。長閑な空気を震わせる爆音が通り過ぎるまで、男はその子の小さな耳を両手で塞いで、しばらく待った。思わず母国の言葉で呟くと、その子が不思議そうにこちらを振り返った。