「まッ、それが出来れば苦労はしないのですけれどねぇ。なんといっても、私は正直で素晴らしい、お客様の誰からも世界で一番愛される信用の厚いホテルマンですからね! 私、とっても正直者なのです!」

 上司の信頼を全く勝ちえなかった、世界で一番幸せであろう勘違い男は、そう朗らかに言ってのけた。

 ホテルマンは一通り笑い転げると、すぐに姿勢を正して正座し、スウェンに深々と頭を下げた。

「通りすがりの親切なお客様、誠にありがとうございました。どうか受付の方を騙せるよう、わたくし、心から精進致します!」
「正直者なのに、騙す気満々なんだね……」

 エルは、残念な眼差しでホテルマンの様子を窺った。クロエが警戒していないところを見ると、まぁ悪い奴ではなさそうだも思えて、「まぁ頑張って」と声を掛けた。

 仮想空間同士は繋がっているようだから、バグによって、セキュリティー・エリアの登場人物が、別の空間へ渡ってしまう、もしくは登場してしまう事だってあるのかもしれない。

 一人通りやりとりを見ていたログが、頭に手をやって「茶番かよ」と吐き捨てた。