路肩に止められた車、まるで先程まで走っていたかのように路上に佇むタクシーと軽自動車、歩道に立てられているバイクには、キーがささったままだった。停まっている車やバイクは、どれも年代が少し古い。

 先程とは違い、建物と乗り物の間に、時代差の違和感が生じているような気がした。

 三人の軍人が話し合っている間に、エルは、ボストンバッグから顔を覗かせたクロエと共に、近場の路上に駐車されていた自動車を観察した。すぐそばの路肩に寄せられている軽自動車は、オジサンの車庫にあった、頭の丸い年代物の車に少し似ていた。

 埃は被っておらず、錆びてもいないが、塗装が色褪せた印象はあった。先程まで都心を歩いていたエルにとって、都会の街並みにそういった乗り物がぽつりぽつりと取り残されている光景には、やはり違和感を覚えた。

 街並みをそのままに、路上に置き捨てられた小道具だけが、一つの時代を戻ってしまったような印象を受けた。軽自動車の中を覗きこむと、内装もオジサンの動かなくなってしまっていた愛車に似ていた。

 オジサンの車は鍵も壊れていて、エルはクロエと、よく忍び込んでは居眠りをした事があった。

「行くぞ」

 ぶっきらぼうに声を掛けられ、エルは振り返った。そこには、相変わらず顰め面をした大男――ログがいた。

「目指す場所は一つだ。そういう設定なら、スタート地点まで問題なく進める」
「そういう設定って?」
「つまり」

 スウェンがログの間から顔を出し、説明役を引き継いだ。

「ゲームでいう『ダンジョン』みたいなものだよ。この仮想空間そのものにはイベント性はないけれど、大事な核――つまり『支柱』だけれど――を守っている建物にだけは、そういった設定が組み込まれている感じかな」