テーブルは重心な造りとなっており、白いテーブルクロスが広げられていた。西洋風にアレンジされた白い鉄作りの椅子は、座席に柔らかいクツションが設けられ、座り心地もなかなか良い。

 昼食時間を過ぎているせいか、広い会場には客が少なかった。中年夫婦が三組ほど、夫人同士が二組、スーツの若い営業マンの組み合わせが三人組ほど、珈琲を飲んでゆっくりとしている初老の男と、大学生風の青年が四人で一つの席を囲んで騒いでおり、他は特に談笑もせず座っている外人の三人組があった。

 エルとクロエは、外人を含む男三人組みの席から、少しばかり離れた場所に案内された。

 こちらの席からは、中央に置かれて漆黒のグランドピアノがよく見えた。残念ながら、本日の演奏時間は終了してしまったようだ。席まで案内してくれた、自称親切で素晴らしいホテルマンが説明した。

「十二時と十三時に一回ずつ演奏されますので、是非、次回もご家族様でお起こし頂いて――」

 彼はそう続け、手と手をもみ合わせた。暇なのか、エルが席についても彼は中々傍から離れようとせず、ホテルの自慢話や設備、本日のメニューについて、まるで自分のホテルのように延々と話し続けた。