けれど、それによってスウェンが罪悪感を抱いてしまう事は、エルとしては避けたくもあった。彼らの任務には、エルを守る義務はないのだ。だから、出会った当初の頃のように、割り切って欲しいなとも思う。

 彼らも、戦場では助けられなかった仲間がいただろうし、多くの犠牲者を見てきたとは思う。目的を念頭に置いて弱者を切り捨てなければ、くぐり抜けられない場面もあっただろう。

 失いたくない人に出会い、大切な人を失った事があるのならば、関わり心を許せば別れが辛くなってしまう事は、エルもよく知っているつもりだった。だから、これまでの旅で親しい人間は一人も作らなかった。

 強がりで負けず嫌いで、とことん損な性分で可愛げがない事は、エル自身も自覚している。

 あの日、クロエを引き取ってくれると申し出てくれた、オジサンの遠い親戚の家族の優しさに甘える事が怖くて、エルは、クロエを連れて逃げ出したのだから。


 支度を整えたあと、エル達はエレベーターに乗り込んだ。

 一階の受付に降りると、そこには誰もいなかった。外は相変わらず夜の光景が広がっていたが、町明かりはなく伽藍としていた。
建物を出てすぐの場所にセイジがいて、彼はスウェンを見るや否や、首を左右に振って見せた。

「誰もいない。どの建物にも灯りさえついていなかった。まるで廃墟だ」
「この世界のセキュリティが働いたのか、世界設定でイベントが発生したのか――どちらなんだろうねぇ」

 スウェンがそう言って、含み笑いを浮かべた。

 風はピタリと凪いでいた。一つの街灯も灯っておらず、世界は夜の闇に包まれてしまっていて、街の全貌だけが薄暗く浮かび上がっているように見えた。