「私の顔ですか? 残念ながら、私はただの『影』でしかありませんから、決まった形がないのです。これは、あなたが考えていた『ナイトメア』のイメージでしかありません。私は『ナイトメア』であり、顔のない何でも知っている、あなたを決して裏切らない小さな相棒そのものですから、そう警戒されないで下さい」
「……ここは、一体どこなんだ?」
「あらゆる場所であり、大部分の一パーセントにも満たない、ただ一つの狭間にある境界線上の死角。色も、温度も、姿も、形も、想いも、ココロも、全てが『無い』場所です」

 男の唇が、大きく弧を描くのを彼は見た。

 悪寒が彼の足元から込み上げた。ああ、この男は人間ではないのだなと、遅れてそう感じさせられた。私はエリスではないのだから、『夢』を見て、尚且つ正常な意識を保てているはずがないのだ。

「私は、彼女達とは全く逆の『理』を司り、決して混じり合う事がなく、決して出会う事もないモノ。ただ一つの為だけに産み落とされる闇に他ならないのです」

 男はそう自己紹介すると、「よろしく」と唇だけで微笑んだ。