彼は立ち上がり、歩きながら珈琲を一杯やった。
けれど異常な眠気が身体を包み、自分の身体を支える事すら難しくなった。危機感が込み上げたが、床に倒れ込もうとする身体を、どうにか椅子に収めるだけで精一杯だった。
閉じられてゆく視界の向こうで、彼は、今まで沈黙していたナイトメアの稼働音を聞いたような気がした。
すっかり目を閉じてしまった時、彼は、『夢』の中へと落ちていた。
そこが『夢』だという自覚があり、彼は意識もはっきりしていた。彼は暗闇の中に浮いていて、また、あの悪夢だろうかと身構えたが、その暗黒の夢に現れたのは女ではなく、長身の男だった。
男は闇の中に腰かけ、優雅に組んだ足の上に手を置いて、こちらを見ていた。
「はじめまして、博士」
顔の見えない男は、形の良い唇を動かせてそう言った。
彼が何も答えずに戸惑っていると、男が小首を傾げて、困ったように微笑した。
「そうですね、私の事は――なんと呼んで頂ければいいのやら。ああ、そうだ、貴方が名付けた物の中に、面白い名前がありましたねぇ。そうですね、そうしましょう。私の事は『ナイトメア』とでもお呼び下さい」
その時、語る男の顔を見て、彼はギョッとした。
男には、唇から上にあるはずの頭かなかった。男の頭部は、暗黒の中で更に濃厚の闇を漂わせるばかりで、形すら出来上がってはいなかったのだ。
「あなたが手を出してしまった世界については、私が一つずつ教えてさしあげましょう。『理』が許す範囲内で、両方の世界が認める言葉だけを使って――ふふふ、どうされたんです、博士? まるで悪夢でも見ているような顔をされて」
男は、綺麗な唇に手を当てると、「ああ」と一人で相槌を打った。
けれど異常な眠気が身体を包み、自分の身体を支える事すら難しくなった。危機感が込み上げたが、床に倒れ込もうとする身体を、どうにか椅子に収めるだけで精一杯だった。
閉じられてゆく視界の向こうで、彼は、今まで沈黙していたナイトメアの稼働音を聞いたような気がした。
すっかり目を閉じてしまった時、彼は、『夢』の中へと落ちていた。
そこが『夢』だという自覚があり、彼は意識もはっきりしていた。彼は暗闇の中に浮いていて、また、あの悪夢だろうかと身構えたが、その暗黒の夢に現れたのは女ではなく、長身の男だった。
男は闇の中に腰かけ、優雅に組んだ足の上に手を置いて、こちらを見ていた。
「はじめまして、博士」
顔の見えない男は、形の良い唇を動かせてそう言った。
彼が何も答えずに戸惑っていると、男が小首を傾げて、困ったように微笑した。
「そうですね、私の事は――なんと呼んで頂ければいいのやら。ああ、そうだ、貴方が名付けた物の中に、面白い名前がありましたねぇ。そうですね、そうしましょう。私の事は『ナイトメア』とでもお呼び下さい」
その時、語る男の顔を見て、彼はギョッとした。
男には、唇から上にあるはずの頭かなかった。男の頭部は、暗黒の中で更に濃厚の闇を漂わせるばかりで、形すら出来上がってはいなかったのだ。
「あなたが手を出してしまった世界については、私が一つずつ教えてさしあげましょう。『理』が許す範囲内で、両方の世界が認める言葉だけを使って――ふふふ、どうされたんです、博士? まるで悪夢でも見ているような顔をされて」
男は、綺麗な唇に手を当てると、「ああ」と一人で相槌を打った。