しかし、彼は驚異を感じ始めていた。取り返しのつかない何かを、自分がまた造り上げようとしているのではないかと恐れを覚えた。偶然出来てしまった仮想空間システムは、コピーも複製版も全く成功しなかった。
あれは、人知を踏み外した何かではないのか?
彼が造ったナイトメアは、『エリス・プログラム』が確立してからというもの、反応をほとんど返さなくなっていた。彼は、ナイトメアを宿した旧式の私用パソコンを、自分のプライベート・ルームに移した。
研究は、次第に彼なしでも問題なく進められるようになり、彼は結果とデータの山を眺める毎日が続いた。
妻となった彼女は、少し体調を患ってしまった為、休養を取って故郷の母のもとへと帰っていた。体調の悪化は、お腹の中の子供にも悪い影響を与える恐れがあったから、軍事病院の医師が、彼女に里帰りを勧めてくれたのだ。
彼女と離れてしばらく、彼は、一人きりになると恐怖を覚えるようになった。彼には、守る者が増えたのだ。得体の知れない嫌な予感が脳裏を横切るたび、彼女と、彼女の腹の中にいる我が子の身の安全を考えた。
人が関われない、まるで神のような力の存在を彼は考えた。ノアの箱舟や、バベルの塔や天国、呪い……どうしようもない大きな力の前で、無力な人間を思った。
彼女が実家に戻ってから、一ヵ月が経ったある日、マルクが実験の中間報告に出掛けてしまい、慌ただしかった研究室が久しぶりに静かになった。彼は、答えを模索しながら、ぼんやりと椅子に腰かけていた。
どのぐらいそうしていただろうか。不意に彼は、ひどい眠気を覚えた。マルクが戻って来るまでの時間を考えると、仮眠を取ってしまうのは、まずいタイミングでもあった。
あれは、人知を踏み外した何かではないのか?
彼が造ったナイトメアは、『エリス・プログラム』が確立してからというもの、反応をほとんど返さなくなっていた。彼は、ナイトメアを宿した旧式の私用パソコンを、自分のプライベート・ルームに移した。
研究は、次第に彼なしでも問題なく進められるようになり、彼は結果とデータの山を眺める毎日が続いた。
妻となった彼女は、少し体調を患ってしまった為、休養を取って故郷の母のもとへと帰っていた。体調の悪化は、お腹の中の子供にも悪い影響を与える恐れがあったから、軍事病院の医師が、彼女に里帰りを勧めてくれたのだ。
彼女と離れてしばらく、彼は、一人きりになると恐怖を覚えるようになった。彼には、守る者が増えたのだ。得体の知れない嫌な予感が脳裏を横切るたび、彼女と、彼女の腹の中にいる我が子の身の安全を考えた。
人が関われない、まるで神のような力の存在を彼は考えた。ノアの箱舟や、バベルの塔や天国、呪い……どうしようもない大きな力の前で、無力な人間を思った。
彼女が実家に戻ってから、一ヵ月が経ったある日、マルクが実験の中間報告に出掛けてしまい、慌ただしかった研究室が久しぶりに静かになった。彼は、答えを模索しながら、ぼんやりと椅子に腰かけていた。
どのぐらいそうしていただろうか。不意に彼は、ひどい眠気を覚えた。マルクが戻って来るまでの時間を考えると、仮眠を取ってしまうのは、まずいタイミングでもあった。