「『死に抱かれる者の夢』……?」
「ええ、おばあ様は、そう言っていたわ。すべてが眠りにつく場所なんですって。きっと、天国と夢の境目なのかしらね。『私と同じぐらいおばあちゃんになって、もう十分だと思えるぐらいの頃に、もう一度ココで会いましょう』って、私はそう言われたのよ」

 彼は、彼女の見る『夢』の世界を、共有してみたいと思い始めた。彼女に協力してもらい、彼は『夢』を人工的に作り上げる研究を本格的に進めた。

 ゆっくりと流れる時間の中で、二人は、いつしか手と手を取り合って眠るようになっていた。彼は生まれて初めて、心が満ち足りるような恋を知った。眠る時も、意識すら彼女と離れてしまいたくなかった。

 そんなある日、彼は、彼女の手の温もりの中で一つの『夢』を見た。

 七色に輝く、ぼんやりとした眩しい空間で、彼は彼女と出会った。夢の中で、彼女は何だか少し活発的で子供っぽかったが、楽しそうに笑って、宙をふわふわと浮いたまま彼と見つめ合い、二人はまたココで合う事を約束した。

 目が覚めた時、お互いの手を握りしめ合っていた。彼女は興奮隠しきれぬ様子で、「私、『夢』の中であなたを見たわ」と呟いた。

 二人はまるで、視えない力に突き動かされるように研究に没頭し始めた。

 彼は、これまで大事にしてきた人工知能の基盤プログラム、オリジナル・マザーを使う事にした。人工知能が発する信号が、より深く複雑に思考するよう手を加え、研究を手伝わせたのだ。

 偶然にも、そこで第二の人工知能が誕生した。彼は、そのプログラムをマザー・プログラムから引き離し、『ナイトメア』という名前をつけた。

 ナイトメアは、既にシステムの中枢に取り込まれてしまったオリジナル・マザーの破片のようなもので、オリジナルに敵う性能はなく、気まぐれのように時々、目を覚ましてはシグナルを送って来る程度の人工知能だった。