「あなたの『勘』とやらも、きっとそうなのじゃないかしら。私もね、不思議な体験をいくつもするのよ。恥ずかしくて他の人には教えた事がないけれど、――きっと、虫の知らせのようなものなのかしらね。私、あなたに出会う前から、こうしてここでお話をしている風景を『夢』で見た事があったのよ。研究所であなたを見掛けた時、ああ、きっと私、あの人の元へゆくのだわ、とも思ったの」

 いつしか、二人は多くの時間を共有するようになった。彼女が話す『夢』は、どれも暖かくて幻想的だった。

 不思議なもので『夢』にも、いくつか種類があるらしい。意識を持って夢の中を散策するもの、リアルに映像の断片だけが流れるもの、勝手にストーリーが進んで、いつの間にか目が覚めてしまうもの……すべて異なった類の夢だと、彼女は説いた。

「難しいのだけど、――そうね。視ている私は『あ、これは違うな』って感じるの。自分の記憶が作り上げた映像と、不思議な力が働いた夢は、感じるリアリティーが全く違っているのよ」

 大好きな祖母が亡くなった日に見た不思議な『夢』を、彼女は彼に話し聞かせてくれた。七色に輝くダイヤの花弁を持った美しい花畑があり、光りの雫が空に向かって、いくつも吸い込まれてゆくような世界だった。そこには元気な頃の祖母が立っており、祖母は駆け寄る彼女に「夢を渡ってこんなところまで来たのね」と言ったのだそうだ。

 その夢の中で、祖母は彼女に、死に抱かれる者の夢から覚めるよう助言したという。再開を喜び、そして現実を知って涙する彼女を優しく抱きとめて、静かに別れを告げた。彼女はその時に、誰かに後ろ手を掴まれて振り返ったところで、『夢』が覚めてしまったのだという。