断られたら長期休暇でもとって、しばらくは研究から離れてやろうかとも思ったが、許可は早々に下りた。

 これまで巨大な研究施設に勤め、複数の研究に足を踏み入れて時期もあったから、たった一人で研究にゆっくりと浸れる日々は穏やかだった。何故か、ドーマとかいう人物の研究資料が届いたので少し目を通してみたが、興味は湧かなかった。

 しばらく、一人で『夢』というテーマを調べた後、新人の女性所員を迎え入れた。人員を増やす気はなかったが、上からあてがわれたので、彼自身に拒否権はなかった。上層部としては、上辺だけでも、ちゃんと研究チームらしく整えたかったのだろうと思われた。

 具体的な研究が早急に進み始めたのは、この頃からだ。

 未知の領域への糸口が見つかるたび、彼の好奇心は次第にのめり込んでいってしまった。軍のためになる研究だとでっちあげ続けた報告書が、いつか現実の物になりそうで悪寒も覚えたが、彼は自身の純粋な探究心に逆らえなかった。

 というのも、彼は物心ついた頃から『夢』というものを見た事がなかった。夢も希望も、想像する意欲もなかったせいだろうか。

 他人から話しを聞くたびに、いつか自分も見てみたいものだと思った。テレビや漫画などで興奮するだけでなく、自分がスーパーヒーローになって空を飛んだり、未知の世界で大冒険を繰り広げたり魔法を使えるような、そんな体験をしてみたかった。

「子供っぽい発想だと思うかい?」

 ある日、唯一の部下となった新任の女性にそう訊いてみた。世界の不思議を追い求める興奮が、私を突き動かしてやまないのだ、と。

 すると、彼女は柔らかく微笑んでこう言った。

「素敵だと思うわ。ロマンチックな世界を追い求めて、一体何が悪いというの?」

 彼は、夢に関わる不思議な体験を収集し始めた。初めは、ほんのちょっとした出来心だった。科学では計り得ない、神秘的な可能性が楽しかった。