両手を腹の上に置いて、エルは天井を眺めるように横になったが、途端に高価なベッドの感触が返って気になって来た。横目にはログと、セイジの大きな身体が嫌でも映り込んで落ち着かない。

 エルはしばらく、天井のシャンデリアを眺めて過ごしていた。

 しばらくすると、両隣の静かな寝息と、その大きな背中から伝わる暖かさが、自然とエルの眠気を誘った。人に挟まれて寝るという、幼い頃に染みついてしまった安心感が次第にエルの瞼を重くした。

 エルは目を閉じながら、誰かの温もりがないと眠れなかった頃を思い出した。
そういえば、オジサンには沢山迷惑を掛けた。一人で眠れるようになったのは、いつからだっただろう?

 縁側でオジサンの帰りを待ちながら、ポタロウとクロエと丸くなって眠った、暖かくて穏やかな昼下がりを思い起こした。ポタロウとクロエは賢い子で、オジサンが帰って来る気配を察知すると、真っ先にエルを起こしてくれたものだ。

 思い出の向こうから、ただいま、と声をかけるオジサンの声が聞こえるような気がする。お帰りなさい、と答えられる当たり前の日々が恋しかった。まだ一ヶ月も経っていないのに、随分と昔の事のようにも思えた。

 何もかも失ったエルに、「おはよう」も「おやすみなさい」も、大切な事だと教えてくれたのは、オジサンだった。


――俺は、お前本当の父親じゃないが、お前と家族になる事は出来る。ここがお前の家だ。


 事故のショックで、ほとんどの記憶をなくしてしまったあの日、エルは、オジサンの家の子になったのだ。