「あの絵本、どこにいっちゃったんだろうね。せっかくオジサンが、俺の為に買って来てくれた最初の贈り物だったのに、結局俺が開く機会って、一度もなかったんだよなぁ。表紙の絵は何となく覚えているんだけど、題名も思い出せないよ」

 疲労した身体に、カーペットの冷たさが心地良くて、エルはオジサンの家にいる時と同じように、猫のクロエに話し聞かせた。ふと、クロエの眠たげな眼差しに気付いて口を閉じる。

 クロエが満足そうに小さな声で鳴いて、顔を伏せた。エルは、クロエの頭を優しく撫でると、「おやすみ、クロエ」と告げて見を起こした。

 室内には冷房の稼働音と、安らかな寝息が続いていた。エルは、クロエの身体が冷えてしまわないよう、ボストンバッグからタオルを一枚取り出して、彼女の身体にかけてやった。

 身体が重い。なんだか眠気のような気だるさを覚え、エルは、寝息につられてベッドの方をチラリと盗み見た。ログとセイジの間には、相変わらず一人分のスペースが空いたままだった。

 とはいえ、むさ苦しい様子も変わりないけど。

 カーペットの手触りを噛みしめつつ、エルは思わず欠伸をもらした。

 その時、横になっているログの丸められた背中から、「おい」とぶっきらぼうな声が上がった。

「とりあえず少しは寝ろ。お荷物になりたくなかったら、休める時に休んでおけ」

 ……こいつ、寝ていたんじゃなかったのか?

 お荷物になってしまうような事だけは避けなければならないし、ここで意地を張っても仕方がない気がして来た。カーペットの上で眠った後に腰を痛ませたとあっては、ログに愚痴を言われるのも目に見えている。

 エルは少し考え、渋々腰を上げた。恐る恐るログとセイジの間に滑りこんでみたが、確かにスウェンが言っていた通り、ベッドはとてもふかふかして気持ちが良かった。