「絨毯、気に入ったの、クロエ?」

 愛らしいクロエの行動に、思わずエルの表情も緩んだ。クロエは腹を見せるように転がり、誘うように大きな瞳でエルを見上げた。

 エルもそのまま横になった。クロエと目線が合うと、何だか楽しくなって声を潜めて笑った。オジサンの家の居間でも、よくこうして一緒に過ごした日々が、とても懐かしく思えた。

「クロエ、聞いてくれる?」

 エルが小声で話し掛けると、クロエが一つ肯いた。エルは更に声を潜めると、秘密話を打ち明ける子共のように語った。

「遊園地って、すごくキラキラとして人の多い所だったね。いつか一緒に行ってみたいねぇ。……俺ね、昔CMで見たテディ・ベアの事を思い出したよ。ずっと昔に、お父さんが、いつか特別なテディ・ベアをプレゼントしてあげるって言っていたのを、すっかり忘れてしまっていたんだ。ああ、そういえばさ、昔誕生日の時にオジサンがさ――」

 オジサンの家に引き取られた後、同じCMを見た事があった。オジサンは風船を沢山膨らませると、不器用な手で熊を作ってくれた。ポタロウとクロエがじゃれるたびに破裂し、驚いて泣き出すエルの為に、彼は再度風船を膨らませて熊を作った。

 特別な日に、特別な思い出を作るのが、オジサンのモットーだった。

 オジサンはロマンチックよりも冒険を求めたが、同じような日々は、あまりなかったような気もする。いつかの誕生日の後、『恐怖のテディ・ベア』という絵本を買って来て、勝手にアドリブでどんどん読み聞かせてエルを笑わせたものだ。