室内は天井のシャンデリア以外に見る物がなく、他にやるべき事もみつからなかった。エルは、ボストンバッグの隣に腰を降ろし、クロエがミルクを飲み終えるまで待った。

 クロエはミルクを飲み終えると、エメラルドグリーンの瞳を持ち上げて、エルを見た。

「クロエ、ご飯、食べる?」

 エルは、柔らかい猫フードを片手に持って尋ねた。しかし、クロエは首を左右に振った。「そうか。うん、ミルクは全部飲んだね。良い子だ」

 エルは、クロエをそっと抱き上げた。彼女の少し骨ばった小さな身体を抱きしめていると、エルの身体の緊張も自然と解けた。

「お前は暖かいね、クロエ」
「ニャーン」

 エルは彼女に触れながら、その小さな身体に異変がないかどうか、こっそり確認した。

 気のせいか、仮想空間に巻き込まれる前よりも少しだけ肉付きが良くなり、毛もふっくらとしていたような気がした。クロエの脇の下に手を入れて、肉球の色を確認すべく手を持ち上げると、クロエが楽しそうに鳴いた。