「……他に、普通の宿泊施設とか考えられなかったのかな?」
「……なかったようだな」

 セイジは、叱られた子犬のようなか細い声で答えた。

 別にセイジを責めているつもりはないのだ。頭が痛くなる状況であるだけなので、エルは、額に手をやりつつ溜息をこぼした。

「道理で、受付の人に変な顔をされる訳だ……」
「まぁ、いいじゃないの」

 ベッドの端に腰かけたスウェンが、朗らかに言った。

「ベッドは上等だし、空間の歪みも見られない建物だ。休息にはもってこいの安全地帯だよ」

 現実世界で持っている特殊能力の一部、が反映しているらしいスウェンの目は、この仮想空間内の『歪み』と呼ばれる異常性が視認出来るので、その判断は的確で信用があるのだろう。

 ログが大きな欠伸を一つしたかと思うと、そのままベッドに横になってしまった。

 こちらに背を向けるログを一度確認し、スウェンが「やれやれ」と肩をすくめた。