エレベーターの扉が閉まったところで、スウェンが、深々と大きな溜息をついた。

「……僕だってさ、まともな場所があったら、こんなところには来ようと思わなかったよ」

 セイジが肩身を狭めつつ、「まぁ仕方がない。道路で寝るよりはましだろう」と遠慮がちにフォローした。彼の後ろで、ログが眠たそうに欠伸をもらした。

 エレベーターを出ると、前方と左右に三つの簡素な扉がついていた。スウェンが部屋番号を確かめ、左方向にあった扉を開けた。

 部屋の中は小奇麗だったが、室内には化粧台が一つ、真っ白なシーツが掛けられたキングサイズのベッドが一つ、シャワー付きトイレが一つしかなかった。

 床は桃色の絨毯一色だった。玄関と思われる一メートル四方のタイル地に、四人分の靴が窮屈に並んだ。エルが、ボストンバッグからクロエを出してやると、クロエは絨毯の上を軽やかな足取りで進み、室内の匂いを嗅いで辺りを観察し始めた。

 エルも、改めて室内を見渡した。ワンルームの室内は、大き過ぎるベッド一つだけで埋まってしまっているという、妙な造りをしている。女性物の、甘い香水の匂いに似た香りが室内には充満していた。壁や天井にはベージュ色のシールが貼られ、何故かキラキラと輝くシャンデリアが一つ下がっている。

 そこでふと、エルは遅れてようやく状況を察知し、深々と溜息を吐いた。ベッドの四方には、それぞれ少しスペースが空いていたので、とりあえず玄関から一番近い場所にボストンバッグを置く。

 スウェンとログが、部屋の様子に目をやり「良い部屋じゃないか」「まぁまぁだな」とそれぞれ感想をもらした。

「もっとドギツイかと思ったけど、結構まともそうで何よりだね」
「ベッドは回転式じゃねぇな」
「君ね、そこは問題じゃないだろう?」

 二人がベッドに腰かけてクッション性を確かめる中、セイジが、落ち着かないように佇んでいた。

 エルは、居心地悪そうなセイジに小声で話しかけた。