エルとセイジは、クロエの座るボストンバンックを挟んで、先頭を歩く二人の大きな背中を眺めつつ並び歩いた。

 セイジは大きな肩を揺らし、ゆっくり地面を踏みしめて歩きながら、時折ちらりとエルを盗み見た。エルは、その様子を横目で見て可笑しく思ったが、セイジ自身が気付かれないよう装っているようだったので、指摘はしなかった。

「さっきの世界とは違って、ちょっとだけ肌寒いような気がするなぁ」
「秋先、ぐらいだろうか」
「そうかもしれない」

 エルは、オジサンと過ごした、十五回の秋の様子を思い返した。縁側には大きな桜の木があって、石垣を超えてすぐの場所には、樹齢の長いガジュマルの木があった。庭の雑草は定期的に刈るだけの手入れだったが、季節の虫がよく居付いた素敵な庭だったと思う。

 タンポポが揺れて、いつか種を付けたそれを、空に飛ばすのが好きだった。秋を告げる虫達が鳴き始めたススキ畑を、夕暮れ時に駆け回ったりした。あの頃は、雑種犬のポタロウがまだ生きていて、二人と二匹で、畑道を散歩するのが日課だった。

 夏の暑さが和らいだ涼しい夜に、オジサンとやった線香花火の灯りも思い出した。

 あの頃は、大きな町明かりなんて知らなかった。百人も住んでいない小さな部落の中で、エルは、十五年をオジサンと過ごした。

 ポタロウは、冬が来る前に死んでしまった。専門の葬儀屋に預けた日は雨だったが、その日の夜は、見事に晴れ上がった。エルはオジサンに手を引かれ、月夜の畑道を歩いた。濡れた頬にあたる秋風が、ひどく沁みた記憶が脳裏に蘇った。

 あの後ポタロウと、生まれてくる力のなかったポタロウの子供たちの為に、二人で小さなお墓を作ったのだ。