建物の多くは、賑やかな光りに溢れていた。居酒屋からは人の声も漏れていたが、不思議と食べ物の匂いはしなかった。途中、酔っぱらったサラリーマン風の男達が、騒ぎながら道端に躍り出て、タクシーを掴まえると早々に乗り込んで行ってしまった。

「……これって、この世界になってしまった人が、一番馴染んでいた景色なのかなぁ」

 エルが呟くと、近くにいたセイジが神妙な顔をして肩をすぼめた。

「そうかもしれない。この時間帯の、こういった景色の中を毎日歩いて、どこかへ向かっていたのだろう」
「なんだか、歩いている人は社会人ばかりだね」
「ああ、疲れ切った顔をした人達ばかりだな」

 足を引きずるように歩くスーツ姿の中年女性を、擦れ違いざま、セイジは悲しげな顔で見送った。

 スウェンとログは、辺りのビルへ目をやりながら時々短い言葉を交わしていた。歩道の幅はそれほど大きくはなく、擦れ違うエキストラは全て東洋人の為、二人が並ぶと歩道が少しばかり通り辛くなってしまうが、誰も彼らに目をくれる様子はなかった。