「君たち、息がぴったりというか、いつの間にか仲良しさんだねぇ。まぁ一通り話しはまとまったよ。最終判断は、次のエリアに出てからするつもりだけど」
「小首傾げてんじゃねぇよ、クソガキ。次はぐれたら、ただじゃおかねぇからな」

 ログが肩越しに振り返り、「やってらんねぇぜ」と面倒そうに片手を振った。彼は、わざとらしく息をつき「やれやれ」とぼやきながら足を進めている。

 エルの中で、他人への礼儀や、目上に対しての節度といったものが吹き飛んだ。
野郎め、畜生。絶対ぇ俺をガキ扱いしてやがるな……

 途端に、これまでのログの態度がエルの脳裏を一気に駆け巡った。彼の台詞に、『迷路の城』で被った迷惑と苦労が思い出され、エルの中で、ブチリ、と何かが切れる音が上がった。

「一本道で、そんな簡単にはぐれるかぁ!」

 エルは堪え切れず言い返すと、飛び上がり、ログの大きな背中を両足で蹴り飛ばしていた。自分には完全に非がないのだというログの後ろ姿が、ひどく感に障ったのである。

 不意打ちで背中から攻撃を受けたログが、「うおッ」と短く声を上げて前にのめり込んだ。スウェンが「わぉ」と楽しそうに言い、セイジが「ログ、エルッ」と蒼白する。

 前方にバランスを崩すログの背中から、蹴り込んだ足が離れた瞬間、エルは彼と共にエリアの境界線に突入していた。

 二人の全身を強い流れが襲い、視界に眩い光の渦が舞う。

 前触れもなく起こった激しい光りの洪水の中で、エルの重力感覚は麻痺した。次のエリアに抜けるらしい事は頭で理解が追い付いたが、咄嗟の出来事のために地面の位置を計りかねた。

 そのまま、空中をしばらく進んだようにも感じたが、一呼吸後には、夜の世界に放り出されてしまっていた。