白化はとうとう支柱本体にも及び、白い灰と化して脆く崩れていく。その光景を、エルは呆けたように眺めていた。ボストンバッグから顔を出したクロエも、髭を揺らしながら、つぶらな黒い瞳でじっと見据えていた。

 不意に、女の子の笑い声が聞こえたような気がして、エルは顔を上げた。

 崩れ落ちる支柱の白が空間を染めるよう、舞い上がる中、沢山の白く柔らかな欠片を背景に、まるでスクリーンに投影される映像が浮かび上がった。映し出される場面は大小様々で、次々と切り替わって流れていく。

 小さな女の子が、両親と何事かを約束している光景。次に、遊園地で父親に肩車をされて楽しそうな女の子と、風船を持ってくれている母親のいる風景……場面は切り替わり、毎年行われた誕生日で、父親から手渡された立派なテディ・ベアが、一際大きく映った。

 残された記憶のような映像の中で、おさげ髪の女の子が、しだいに少女へと成長していった。

 思春期に入り、父親が突然死んで悲しみにくれた時期、ちょっとしたきっかけで家出をしてしまう。少女は悪い友達の家に泊まるようになり、そして、帰らないまま年月が過ぎ去る。

 雪の降るある日、彼女が路頭で座り込んでいるところを一人の男が見付ける。男は座り込む少女の隣に腰かけて話を始めた。また明日も回って来るからと微笑んだ男は、保護指導員だった。

 少女は、男の言葉に次第に心を動かされ始め、同じ年頃の少年少女たちがいる家に住み、共同生活を送った。彼女は様々な事を学び、母親とようやく電話で連絡を取るまでになった。

 十八歳を迎える前の日、彼女は、とうとう実家に帰る決意をした。指導員たちに感謝を述べ、旅立ちの日まで新しい入居者たちを元気づけ、そして彼女は、子共の家から旅立った。

 少女は、あまり大きなお金を持っていなかったから、帰りの駅に乗る際に、安いテディ・ベアのストラップを一つだけ買った。昔、両親にもらったテディ・ベアが懐かしかった。

『帰ろう。もう一度あの家に帰って、一からやり直す事だって、出来るはずなんだわ』