「――でも、ごめんね。正直にいうと、ここの支柱の様子については、僕らにとっても想定外だった。見る事が辛いなら、次に持ち越しても構わないよ」
「ううん、次には持ちこさない。俺はきっと、それを知らなければならないから」

 先へ進むのであれば、必要な事は最低限理解し受け入れなければいけない。それが戦い抜く為には必要なのだと、そう教えてくれた人の言葉が、エルの勇気を奮い立たせた。

 スウェンが、半ば諦めたように肯いたので、エルは呼吸を落ち着けてから支柱を振り返った。

 ログが、真っ赤な血だまりの中にある支柱に向かって、進んでいく姿があった。彼の靴底には血がまとわりつき、歩くたびに跳ねた雫が嫌な音を立てていた。

 中央で佇む支柱は、苦しそうな稼働音を上げ続けていた。まるで、呼吸をするたびに吐血を繰り返す生き物のようにも思えて、エルは改めてそのおぞましさに小さく身震いしてしまった。

 支柱へ辿り着いたログが、左手を当てた。彼の髪や衣服が静電気をまとって膨らみ始め、支柱に触れたログの左手が青白く発光して、指先から腕に掛けて、赤黒い模様のような柄が透けて浮かび上がった。

 瞬間、発生した力に反応するかのように、支柱が一度だけ大きく振動した。空間内が小刻みに揺れたかと思うと、ぴたりと稼働音が鳴り止む。


 ハラハラ、と灰が風に運ばれて崩れていくような音が上した。


 電気ケーブルの一番遠い先から、急速に風化するように白く寂れて、柔らかく散り散りに剥ぎ取られ始めた。それは次第に分解される速度を上げ、上空へ向けて舞い上がる白い残滓が、粉々になりながら部屋内を満たしていった。

 柔らかな風が、下から巻き起こっていた。仮想空間に投影されていた物質が、粒子となってデータの中から消去されてゆくみたいだった。