しかし、しばらく考えてみると、気のせいのようにも思えて来た。相変わらず人の通行は続いており、通りには車も行きかっているのだ。

 突っ立っている訳にもいかないので、エルは、向かい側からやってくるパーカー姿の若者を避けて先へと足を進めた。モノレールに乗ってみるのもいいかもしれないと、そんな考えが脳裏を過ぎる。


「お客様、可愛らしい『猫ちゃん様』をお連れですねぇ」


 大きな白い建物の前で、唐突に男から声を掛けられた。男は荒れた歩道の上で、両足を揃えて姿勢正しく佇んでいた。白いシャツと蝶ネクタイ、磨かれた革靴に皺のないタキシードを着込んでいる。

 行く先を確認しながら歩いていたつもりだったが、このような男が立っていた覚えはない。記憶を辿るものの、先程まで見ていた光景が、不思議と曖昧で思い出せなかった。

 今日は、よく話しかけられる日だなと妙に思いながらも、エルは、声を掛けて来た男を窺った。