大きな目的と、己の役割を最低限知れていればいい。だから、全部を理解する必要はないのだ。

 エルは潔く身を引く事にした。これ以上、セイジを困らせるのも可哀そうだ。

「すまない。こちらとしても、推測の段階で――」
「うん、分かってる。俺は事情を深く訊ける立場じゃないし、きっと俺には必要のない深い事情だったって事ぐらい、ちゃんと分かっているから、もういいよ。ごめんね」

 セイジは、屈強な大男だったが、まるで子供みたいな人だとエルは思った。励ますようにどうにか笑い掛けると、彼がどこか安堵したような、それでいて心配し戸惑うような気配も漂わせた。

 その時、ログとりやりとりを放り投げたスウェンが、「ああ、もうッ」と半ばやけくそのような声を上げた。

「エル君。君、ちょっと利口過ぎるよ。僕が見ていて心配するぐらい従順で物分かりが良すぎるんだ。もうちょっと我が儘になったって、誰も君を責めたりしないんだからさ」

 スウェンは、少し苛立ったように片手を持ち上げ、髪をぐしゃぐしゃと掻き毟った。

 少し離れている間に、彼なりに考える事でもあったのだろうか。エルは、スウェンならば都合良く流して放っておいてくれると思っていたばかりに、意外に思って、冷静でない様子の彼へ目を向けた。

 クロエがそれとなく一同を見渡し、少しだけ小首を傾げると、そっとボストンバッグの中に戻っていった。