幼い頃の記憶は、大きくなるに従って忘れ去られてしまうけれど、何もかもが幸せに満ちていたような気がする。
いつか、皆で遊園地に行こう、と母は言った。あなたのお父さんと私が、まだ若い頃に行った『夢の国』に、今度はあなたも一緒に行くのよ、とても素敵でしょうねぇ、と娘に夢を語った。
父も、娘に約束してくれた。いつか、大きなテディ・ベアをプレゼントするよ。遊園地では、そうだな、まずは風船を買おう。お父さんが青、お母さんがオレンジ、お前はピンクがいいかな。うん、すごく楽しみだなぁ。
大きなテディ・ベアも、歩く人形のお友達も、ふわふわと宙に浮かぶ風船も、いつか王子様が来てくれるような大きな城も、とても素敵な夢だと女の子は思った。
けれど、その子どもは思い描く夢だけで満足していた。父と母に抱かれて眠る時が、何よりも幸福だったからだ。
女の子は夢を見る。
もう少し待てば、母のように、髪の長さもようやく腰まで届くだろう。
フリルのスカートを着て、友達のテディ・ベアを連れて。そうして、ピンクの風船を持って、父と母の三人で素敵なお城を散策する夢を見た。
※※※
今にも止まってしまうのではないかと思うほど、その機械は一定の時間に、一度の強い鼓動と、深く息を吐き出すような震える稼働音を繰り返していた。
開かれた白い空間には、ひどい熱気が充満していた。現実世界ではないはずなのに、その熱気が覗いた肌を打つ感覚はリアルだった。
ホテルの最上階で見たような、鉄製の筒状の機器と沢山のコードは同じ光景だったが、目的とする支柱からは、大量の血液がもれて白い床一面に広がっていた。
血とオイルの匂いが鼻をついた。白い床に広がった深紅は、一際鮮やかに映った。支柱から滲み出た血液は既に一部が柔らかく固形化し、まるで支柱の本体が流血を起こしているようにも思えた。
あまりにもその赤い光景が強烈で、エルはしばらく、先に辿り着いていたセイジとウスェンの姿に気付けないでいた。
いつか、皆で遊園地に行こう、と母は言った。あなたのお父さんと私が、まだ若い頃に行った『夢の国』に、今度はあなたも一緒に行くのよ、とても素敵でしょうねぇ、と娘に夢を語った。
父も、娘に約束してくれた。いつか、大きなテディ・ベアをプレゼントするよ。遊園地では、そうだな、まずは風船を買おう。お父さんが青、お母さんがオレンジ、お前はピンクがいいかな。うん、すごく楽しみだなぁ。
大きなテディ・ベアも、歩く人形のお友達も、ふわふわと宙に浮かぶ風船も、いつか王子様が来てくれるような大きな城も、とても素敵な夢だと女の子は思った。
けれど、その子どもは思い描く夢だけで満足していた。父と母に抱かれて眠る時が、何よりも幸福だったからだ。
女の子は夢を見る。
もう少し待てば、母のように、髪の長さもようやく腰まで届くだろう。
フリルのスカートを着て、友達のテディ・ベアを連れて。そうして、ピンクの風船を持って、父と母の三人で素敵なお城を散策する夢を見た。
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今にも止まってしまうのではないかと思うほど、その機械は一定の時間に、一度の強い鼓動と、深く息を吐き出すような震える稼働音を繰り返していた。
開かれた白い空間には、ひどい熱気が充満していた。現実世界ではないはずなのに、その熱気が覗いた肌を打つ感覚はリアルだった。
ホテルの最上階で見たような、鉄製の筒状の機器と沢山のコードは同じ光景だったが、目的とする支柱からは、大量の血液がもれて白い床一面に広がっていた。
血とオイルの匂いが鼻をついた。白い床に広がった深紅は、一際鮮やかに映った。支柱から滲み出た血液は既に一部が柔らかく固形化し、まるで支柱の本体が流血を起こしているようにも思えた。
あまりにもその赤い光景が強烈で、エルはしばらく、先に辿り着いていたセイジとウスェンの姿に気付けないでいた。