遠くなってゆくテディ・ベアの泣き声が、悲痛さを孕んで響いて来る。

 エルは無意識に、ボストンバックのベルトを強く握りしめた。城の中には暗黒が広がっており、隣を歩くログの顔さえも見えなかった。

 すると、暗闇の中ではぐれないようにするためか、ログがエルの腕をしっかりと掴んで、こう言った。

「俺だって信じたくはねぇ。マルクが作り上げた仮想世界には、一つの支柱に、一人の人間が使われて、『その人間を想う何者かの心や意思が宿っているセキュリティー』があるなんて事は」

 ああ、まるで悪夢だ。

 エルは、一筋の光りがこぼれる長方形の出口を見据えた。

 出口の向こうには、おぞましい一つの真実が二人を持っていた。

          ※※※

 小さな頃、色鮮やかな風船に憧れた事がある。

 ふわふわと浮かぶ丸い球体の存在は、幼い彼女にとっては不思議そのもので、それを沢山もらう事が出来たなら、一緒に空を飛んでいけると信じていた。

 遊園地には行った事がなかった。テレビや広告のチラシで見かけるたび、どんなところだろうと自分勝手な想像を楽しんだ。

 絵本を読んでくれる母の話は楽しく、素晴らしいパレードや、美しいお姫様、背の高い魔法使いや、お菓子の家がとても魅力的に思えた。人形遊びが好きだったから、彼らがお喋りの出来る友達だったら良かったのにと、飽きずに素敵な世界を空想した。

 ピンク、黄色、赤、緑、たくさんのクレヨンを使って絵を描いた。金色の長い髪をした、優しくて可愛いブルーの瞳の女の子の絵を好んで描いた。

 幼い子が描く稚拙な絵でさえ、母にとっては誇らしくて嬉しい事だったのだろう。

 母は、子共が描く絵を見て「素敵な女の子ね」と微笑み、飽きる事なく我が子を褒めた。父は、「二人はきっとどこかで出会って、親友同士になれるだろう」と夢を語った。