「……これは、一つの憶測でしかないが、セキュリティー・エリアの生成方法や在り方については、既にスウェンの方で一つの仮定が立っているーー」

 ログが声を落として説明しながら、「とりあえず行こう」とエルの背に片腕を回して促した。

 動き出せないエルを見て、彼が初めて戸惑うように眉を下げた。どうしたらいいのか分からない、という初めて見るログの弱った表情に気付き、エルは、ようやく深呼吸しながら瞬きをした。

 無理やりにでも引っ張っていく方法もあるのに、それをしないんだな。

 変な男だ。よく分からない。脳裏にそんな疑問が小さく浮かんだが、エルはそこまで考える余裕はなくて、こっくりと肯いてログの目から視線を外した。

「――マルクが作った仮想空間は、構築自体が不完全だったんだろう」

 二人は目を合わさないまま扉の中をゆっくりと進み、ログが仮説について話した。

「仮想空間で設定されたセキュリティーの動きについて、スウェンは……作り上げたプログラムとは別の意思があるんじゃないか、と疑っている」