エルは、溜息をついた。面倒な男に掴まったなと、小話に付き合った自分の選択を少しだけ後悔する。

「……難しい事は分からないけど、願った人は、きっと大切な人の事を一生懸命考えて『その人を助けて』と願った。幸せを強く願われて、神様にとって『一番誰もが幸せに慣れる』未来が選ばれるんじゃないかな」
「なるほど。良い意見だ」

 僧侶は、ちょっと肩をすくめ「どちらが本当に救いになるかは、また別問題だがね」と呟いた。

「可愛い我が子に約束された時から、もう随分と時間が過ぎてしまっている。その『神様』としては、そろそろ帰って来て欲しいのだろう。だから悩んでいる」
「あの……貴方の言っている事が、よく分からないんだけど?」
「――しかし、既に未来を選んだ者がいるな」

 僧侶の声色が変わった。どこかを見やる彼の笠の下から、凍てつくような薄い青の瞳が覗いた。

 通り過ぎる車や歩く人間の姿も、何もかも映し出さないような綺麗すぎる瞳に、エルは寒気を覚えた。崇高な物の他は、どうでもいい事なのだろうと思わせるような、違い次元で物を考える人間の眼差しに思えた。