「……なるほどな、材料ってわけか」

 掴まれたジャケット部分に目も向けず、ログが人形を睨み据えたまま軽蔑するように細めた。

「これまでの人間は全て、何らかの『材料』にされていたって訳か」

 低く呟きながら、ログが一歩前に出た時、エルは彼のジャケットから手を離してしまっていた。

 エルは、唐突に自分の立場を理解するに至ってしまった。それは同時に腑にも落ちる内容で、こうも思った。

 ああ、やはり俺とクロエは、肉体ごと仮想空間に来ているのだ、と。

 本当は薄々ではあるが、エルは自分が、誤って【仮想空間エリス】に精神が入り込んだのではなく、生身の身体であるのだとは勘繰っていた。

 ただ、改めて確信させられてしまうと、「やっぱりそうなんだ」と心は揺らいでしまった。ニュースで流れていた行方不明事件と、スウェンから聞かされた発見された死体の話が脳裏で結びついて、自分が、例の被害者の一人として巻き込まれた事を完全に理解する。


 エルは今、ログ達とは違って、生身の身体でバーチャルの世界にいるのだ。

 人間であるエルと、猫のクロエは、肉体のまま現実世界から消失している。


 エルも馬鹿ではない。スウェンやセイジから話を聞かされた時から、ああ、もしかして、とは考えていた。

 ホテルの一階で銃撃戦に巻き込まれた時、瓦礫に触れた感触はリアルだった。その時に少し傷つけてしまっていた掌はヒリヒリと痛み、その違和感は、今も完全に抜け切れてはいない。

 そもそも、これまでずっと一緒に過ごしていたクロエが実体でなかったのなら、エルが真っ先に、この世界に対して強い違和感を覚えていたはずだろう。

 何度思い返しても、ここに来てからも抱きしめているクロエの身体は、現実のものだと理解していた。刻一刻と近づく肉体の限界を感じさせる弱々しい生命の温もりは、これまで旅をしてきた時と寸分違わない。


「――そっか、やっぱり俺は、肉体を持ったままここへ来たんだね」