幼い頃、エルは可愛い女の子を見るのが好きだった。公園の傍らに腰かけて、その子を迎えに来る母親の暖かい微笑みと、女の子が瞳を輝かせて駆け寄る姿を、いつまでも飽きずに眺めていた事があった。

 エルにも、可愛らしい物や、夢に焦がれていた時期があった。

 今では実感もなくて、あまりよく覚えていない記憶だった。何故かは知らないが、思い出す当時の記憶は、まるで自分ではないみたいに曖昧で、大切な人を失ったときのような息苦しさを、ふとした拍子に胸の奥に思い出していた。


 どこで、俺は大人になったんだろう。いつ夢を諦めて、捨ててしまったのか分からない。

 先程ログが語ってくれたアリスは、まるで遠い昔にエルが失ってしまった、夢のような女の子だった。


 しばし休憩を挟んだあと、エルとログは、迷路の中央に聳え立つ城を目指して先を進んだ。

 ずいぶん長くかかったが、だいぶ上の方まで来ると、複雑怪奇な上がり下がりの迷路にも、とうとう終わりが見えて来た。

 登った先で二人を待ち構えていたのは、一つの巨大な煉瓦造りの城を中心に広がる、植物の壁が塀のように刈られ設置された庭園の迷路だった。二人は、二メートル近い植物の通路に突入して初めて、その庭園の道が選択制である事に気付いた。

「嘘だろッ、また迷路かよ!」

 エルは思わず頭を抱えた。