第一印象は最悪だが、――いや、喧嘩相手みたいな男だからこそ、大人しくされていると調子が狂う。しっかりしろよな、と眼差しを向けてエルがふんぞり返ると、ログがまじまじとこちらを見て来た。

「やけに協力的だな……。こいつ、そんなに可愛いか?」

 ログが写真を片手に問い掛ける。

 何勘違いしてんだよ、お前、さては空気が読めないタイプだな。

 可愛い女の子の写真で妙なテンションが上がる人間じゃないぞ、とエルは反論しようとした時、不意に、ほとんど思い出す事もなかった過去の記憶が蘇り、言葉が詰まった。

「――……アリスは、すごく可愛いと思うよ」

 どうにか心を押し殺して、エルはそう答えた。意識して、悪ガキ少年のような強がった表情を作って見せると、真っ直ぐこちらを見つめるログの視線が訝しげに細めらる直前に、怖くなって視線をそらした。

 どうか、うまく取り繕えていますように。気付かれませんように……

 そう願いながら、エルは、やや大袈裟に階段を下りてクロエを抱き上げた。彼と距離が離れ、背中から感じる彼の視線がそれた時、思わず安堵の息が口からこぼれた。