語るログの声はぞんざいな感じだったが、どこかを懐かしんでいるようにも聞こえた。エルが写真を返すと、彼は素直にそれを受け取り、しばらく深い蒼の瞳で写真に見入っていた。

 他人が入り込めない大切な思い出が、きっと沢山あるのだろう。

 緊張感が和らいだログの眼差しを見て、エルはそう思った。彼の瞳に浮かぶ全てが、彼らと過ごした時間の長さを物語っているような気がした。

 短い付き合いではあるので、詳細を聞くのは野暮というものだろう。

 エルは、踏み込んでしまう気配を察知し、そこで話を打ち切る事にした。どういった関係で彼女の父親と縁があったのか、アリスとどう過ごしてきたのか、暇潰しに訊ける質問はいくらでも浮かんだが、エルは距離感を間違えてはならないとも感じていた。

 場に沈黙が広がり、エルは、どうしたものかと首を傾げた。

 チラリと目を向けると、ログはまだ写真を見つめていた。親友でもあり、家族のようであり、大切な今を共に紡いでいる人達にアリスも含まれているのだろう。ログは大きくて強そうな大人だったが、写真を見つめる彼は、少し寂しそうに見えた。

 きっと誰よりも、彼がアリスを心配に思っているのかもしれないなぁ。

 エルはそっと足を進めて、ログの頭に手を伸ばした。癖毛の固い髪に問答無用で手を置くと、彼が一瞬驚いたようにギクリと強張ったが、構わず力いっぱい雑に撫でてやった。

「元気出せって。お前強そうだし、絶対アリスを助け出せるよ。こうして会ったのも何かの縁だし、俺も出来る限りの事なら協力するからさ」

 なんだか小さな子どもが落ち込んでいるように見えて、頭を撫でて慰めてやるのが正しい気がしたのだ。

 驚いたような彼のブラウンの瞳に力が戻るのを見て、エルは手を離した。