「……あの、屋根から階段がはえたりしているんだけど?」
「案内書きによると、『迷路の城』らしいぜ」

 ログが、しれっとそう言った。

「この中のどこかに支柱があるらしい」

 広大な敷地を活かした巨大迷路は、山のように二人の眼前にどっしりと鎮座していた。入口となっているトンネルは三メートルほどの高さで、そこを抜けると、コンクリートの白が眩しい迷路が広がっていた。

 右にも左にも、正面にも通路や階段が入り乱れ、ログとエルは思わず立ち尽くした。バッグの口から顔を出したクロエも、しげしげと辺りの様子を窺った。ゴールまで辿りつけるのかも不明な広大な『迷路の城』に、他の人間の姿はなかった。

 しばらく立ち尽くした後、ログが無言でのっそりと歩き出した。エルは、その後ろをついていった。

 迷路街は、外の音が鈍く入り込むばかりで、少し進むと風の音は以外聞こえなくなった。

 回廊があり、階段があり、上ったり下がったりを繰り返す中で、いつの間にか、どこから来たのかも分からなくなってしまった。


「……なぁ。俺たち、迷子になってない?」


 不安を覚え、エルは、前方を歩く大きな背中に向かって尋ねた。

 あれからどのぐらい歩いたのかは不明だが、ゴールに近づいているどころか、ちっとも進めている気がしない。