「なんだ、ただのエキストラだったのか?」

 彼はそう言うなり、睨む先をエルへと移し替えた。

「おい、何があった。つか、お前迷子になってんじゃねぇよ。手間かけさせんな」
「……迷子じゃないし。ちゃんと見失わずについてきたもん」

 迷子になったのは事実だったので、エルは唇を尖らせて小さく反論した。

 すると、ログのこめかみにピキリと青筋が立った。

「『もん』じゃねぇよッ、セイジが向こうに気を取られているお前を目撃してんだ。スウェンは大丈夫だっつってたけどな、結局しばらく迷子になってただろうが。それとも何か? お前が小さいせいで俺達に見えていなかっただけなのか? あ?」
「ぐぅ、言わせておけばこの野郎! お前らがデカ過ぎなんだよッ、それに俺はこれから伸びる予定なの!」

 畜生、野郎め。俺を完全にガキ扱いしてやがる。

 エルは、下からログを睨み返した。喧嘩なら買ってやると体勢を構えたが、ログが先に短い息を吐いて諦めたように踵を返し、「行くぞ」と歩き出してしまった。

 もう一度はぐれてしまったらと考えると、エルは先程の恐怖もあって、慌ててログの後ろを追い駆けた。他の人々の流れに揉まれないよう、ログの大きな背中の後ろに出来たスペースに収まり、しっかりとついて歩き。

 足の長さが違うせいで、大股で渋々歩く彼を追うエルは自然と小走りになっていた。

「で。さっきは何ともなかったのか」
「は? 何が?」
「――何もないなら、いい」

 ログは仏頂面で押し黙った。ついてゆくのに必死で、エルも黙ったまま小走りを続けた。