「これだけ人が群れる街であるならば、食事処はいくつもあるのだろう」
「ごちゃごちゃして、良く分からないんだ」

 エルは本音をもらし、眉根を寄せた。

「中の通りは、食べ物を並べて置いてあるから、俺たちが近くまでやってくると店の人が嫌な顔するんだよ」
「そうか」

 僧侶が淡白に言葉を切ったので、エルは「じゃあな」と言って歩き出した。

「やると決めたから成し遂げるのか。それとも、望んだからその未来を選んだのか、どちらが正しいのだろう?」

 その時、僧侶が呼びとめるような声を上げた。

 エルは足を止め、肩越しに振り返って訝しげな眼差しを向けた。

「何それ。占いかなんか?」
「――いや、現在は『過去』であったな。うむ、大変難しい。タイミングがとても大事なのだ」

 僧侶は独り事のように続け、小首を傾げる。

「そうだな。もし神様が『願いを一つだけ叶えてやろう』と約束したとき、その人間が自分の事ではなく、他者を助けたいと願ったとしたならば、その気持ちは何だろうか?」