まるで大勢の若者が集まって騒ぎまくったあとのようなこの部屋を、私物だけが乱雑している平均的清潔な環境に戻すのが僕の役目だ。とにかく様々なものが混じったような、このひどい悪臭と室内の雰囲気を、人間が最低限守らなければならない生活基準のような状態にまで、もっていかなければならない。

 この若いカップルは、夕方から夜にかけて活動している人間らしく、いつだって朝はどちらも気だるそうにしていた。女の方も男の方も、僕が来るなり寝ぼけ眼を向けた。

「よろしくぅ」

 そう、今日も二日酔いのような声を上げる。すっかり傷んだカラーの髪はぼさぼさで、女はメイクがひどい具合に落ちかけている。どちらも背丈があって骨が見えるほどに細い。彼らは僕がやってくるのを見計らって、どうにか起床して玄関を開け、肌を多く露出するラフな寝着姿のまま、クッションが飛び出したカウチソファに並んで座るのだ。

 この町には、彼らのように、僕よりも楽をして金を稼げる若者も多い。住むところになんの執着も持たない代わりに、今を楽しむことだけに集中していた。

 苦労を知らないし、知りたいくもない、この町にいる『最下層ではない人間』の典型的なタイプだった。恵まれた都市に住まう上流層の人間から見れば、みすぼらしいこの町で、自分達が彼らと同じくらい偉いのだと信じて疑わない。

 とはいえ、彼らには総じて共通している点がある。それは自分達を、人間としての高い基準に置いて、僕らのような連中を「クソ以下じゃん」と嗤うことだ。

「しっかりキレイにしてよぅ~? アタシさぁ、台所が汚いの、なんか耐えられないもん」
「俺さぁ、ちょっと考えてたんだけど、新しいトコに住んじゃう? 先輩の部屋で一晩過ごしていいって言われた時、お前ってば、すっごく興奮してたじゃん? そっちの方が盛り上がんなかった?」
「もぅ、またその話~? だってさぁ、足の踏み場がちゃんとあったじゃん、二人分なんて余裕でスペースあったしぃ」